2019年、IADPは25周年記念を迎えました。2020年、神戸が震災後25年を迎えた中、世界はコロナ危機の最中にあります。「がんばろうKOBE」の後、神戸は生き生きとしているでしょうか?この危機において、私たちは一筋の光を見出し、新たな展開へ迎えるでしょうか?

フロイトは人生で大切な事として、愛することと、働くことを挙げました。しかし、日本人はややもすると、ひたすら頑張って働き、いつの間にか愛すること、生きること、その瞬間の喜びを遠くに置きがちです。愛することと働くことは、どちらかしか選べない『究極の2択』なのでしょうか?
否。
マクロにはそうかもしれませんが、一部の心理療法・心理支援で活用されつつある、ミクロな量子力学の観点では違う捉え方ができます。
蓋を開ける瞬間には、どちらもありうるのです。これらの「こと」に関わる生と死の2つの欲動(無意識の衝動)は、同時には正確に測定できないですが、両者は対立するものではなく、相補い、人生の全体像を説明するものとして描けます
人は意志決定が出来ない自我自律性不全にある時、どっちつかずになります。しかし、改めて2択で問うことで、瞬間瞬間、自分の位置を定め直して愛することも選び、どちらもOKと置いて主体的に行き来していけるのです。

西洋では、近代以降にニュートン力学的因果論から揺らぎを捉える量子力学への展開があり、人間と自然が対置され、個人の自我のあり方が問われる中で、様々な心理療法の営みが浸透してきました。
他方、東洋では近代以前に量子論に通じる思想が展開しました。
特に人間と自然を一体と見ていた日本人は箱庭遊びを楽しむ文化を持ち、生死に関わることを「縁」として、共同体を基盤に自己を広げて揺らぎの中で乗り越えてきたのかもしれません。

しかし、近代に高まり、現代に入って激しさを増していったグローバル化の波が、洋の東西の境界を揺るがし、昨今のインターネットの普及と相まって、時間感覚の変更をも迫っています。
世界が急速に変化し続ける中、今や誰もが、自分の位置を、心の時間・空間を容易に失いかねないのです。

こうした中、日本ではかつての共同体が失われて自己が拡散しがちとなり、しばしば直線的な因果論に囚われ、自己を狭めてもいます。
そして、空気を読んで意志決定を保留してひきこもったり、『女は家庭で男は会社』『生きるために、家族や会社のためにひたすら頑張るべき』といったような、旧来の一度定めた「あるべき」世界観から脱却しきれずにいます。
それは結果として一人ひとりを孤立させ、家族や組織の危機の瞬間に働けず、災害やいじめ、あるいは家族や民族のトラウマを見逃す流れを作ります。
あるいは、発達のための時間・空間を持てず、発達障害か否かのマクロな2分法に囚われ、個々人の発達するミクロなポイントを捉えられない事態を招きます。
こうして、可能なことも不可能の波にさらわれていくのです。

では改めて、そこに自我も置き、ミクロな量子力学を置いてみるとどうでしょうか?
母性社会と言われた日本にも父がいて、エディプス(父と母との三者関係)があると置いてみるとどうでしょうか?

不可能を可能にする。直線的な世界を抜ける道を拓くのが「この瞬間」の揺らぎと選択であり、心のミクロな変化を捉える専門家のなせる業です。
専門家としての自分を磨き、より豊かな支援につなげるために、自我と自己の相互作用を置き、男女の愛情交換・協働を基盤に東洋・西洋の2分法も超えていきましょう。

さあ、まずは集いましょう。
心理・教育・医療・看護・福祉・・・様々な形で心の支援に関わる専門家、これらを志す学生のグループの力で、不可能の波を越えるのです。
この学会での「ご縁」から始まる、ミクロな変化のモザイク的饗宴を。
時空を超えた飛躍を。死を置き、それでもなお、生き生きとした神戸を。日本を。世界を。

関西という地は、日本人の勤勉さに加え、瞬間「アホ」になり、生き生きとできる文化を有しています。
関西初上陸のIADP。この地ならではの展開を、今、ここからはじめましょう。港の街で「祭り」の準備をしてお待ちしています。

第26回年次大会会長 永山 智之

 

 

大会会長プロフール

 

永山智之 Nagayama Tomoyuki

兵庫教育大学大学院学校教育研究科臨床心理学コース講師。

PAS心理教育研究所客員研究員。

心理療法家(臨床心理士・公認心理師)。博士(教育学)。

 

【専門】

力動的心理療法。思春期・青年期の人格発達。箱庭や描画、グループの現代的活用法。

現代型の対人恐怖や神経発達症(発達障害)がある人、不登校・ひきこもり状態にある青年へのコンバインド・セラピー(個人とグループの併用)に注力してきた。

現在、PAS理論(精神分析的システムズ理論 Psychoanalytic Systems theory)に基づき、思春期・青年期の主体性発達プロセスの量子論的分析を行い、心のミクロな変化を捉える心理支援技法の開発を進めている。

 

【略歴】

兵庫県出身。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程を出た後、滋賀大学保健管理センター/障がい学生支援室特任講師などを経て現職。兵庫県スクールカウンセラーやカウンセリングサロンArk神戸セラピストとして心理支援を行っている。

 

【主著】

Nagayama,T.(in press) Quantum Analysis of Either-or Questioning Leading to Improve Underdeveloped Ego Autonomy in Early Adolescence: Using the Psychoanalytic Systems Theory. NeuroQuantology

永山智之(2017)自閉スペクトラム症と診断された青年への個人療法とグループ活動のコンバインド・セラピー.心理臨床学研究,35(5),526 – 537.

永山智之(2016)ふれ合いを恐れる青年に個人面接とグループ活動を併用する意義について―現実場面と深層の通路の確立―.箱庭療法学研究,28(3),15 – 27.

永山智之(2016)二者状況と三者状況から見た心的世界とコンバインド・セラピー―対人恐怖の変化と発達障害をめぐる現代心理療法の可能性―.京都大学大学院教育学研究科博士学位論文.

永山智之・小山智朗・小木曽由佳・土井奈緒美・木村智草・白木絵美子・桑原知子(2013)わが国における「発達障害」への心理療法的アプローチ―事例のメタ分析による類型化の試み―.心理臨床学研究,30 (6),796 – 808.